か知りませんが、山根君に悪いことがあるなら、私が忠告します、おあがりなさい、飲んで吐くが好いんです、」
細君はその水を飲み出した。省三はその傍へ坐つて悲痛な顔をしてそれを見てゐた。
赤ら顔の医者が薬籠を持つてあがつて来た。医者は細君の傍へ行つて四辺の様をぢつと見た。
「吐きましたね、」
「吐いてます。まだ吐かしたら好いと思つて、今この茶碗に一杯水を飲ましたところです、」
野本は手にしてゐた茶碗を医者に見せた。
「それは大変好い、」
医者は今度は細君の方を向いて云つた。
「奥さん、大丈夫ですよ。御心配なさらないが好いんですよ、」
細君は声をあげて泣き出した。
「先生、お恥しいです、」
省三はやつとそれきり云つて眼を伏せた。
「どれくらいになりますか、」
「私が気が付いて、まだ二十分ぐらいしかならんと思ひますが、」
「さうですか、」
医者は薬籠を開け小さな瓶を出してそれを小さな液量器に垂らした。
「水を持つて来ませうか、」
野本が云つた。
「さうですね、すこしください、」
野本は茶碗を持つて台所の方へ行つたがやがて水を汲んで帰つて来た。
医者はその水を液量器の中に垂らし
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