しろお岩が右の姿であるから養子になろうと云う者がない。皆が困っていると、下谷《したや》の金杉《かなすぎ》に小股潜《こまたくぐり》の又市《またいち》と云う口才のある男があって、それを知っている者があったので呼んで相談した。又市は、
「これは、ちと面倒だが、お礼をふんぱつしてくだされるなら、きっと見つけて来ます」
と、云って帰って往ったが、間もなく良い養子を見つけたと云って来た。それは伊右衛門《いえもん》と云う摂州《せっしゅう》の浪人であった。伊右衛門は又市の口に乗せられて、それでは先ず邸《やしき》も見、母親になる人にも逢《あ》ってみようと云って、又市に跟《つ》いてお岩の家へ来た。
伊右衛門は美男でその時が三十一であった。お岩の家ではお岩の母親が出て挨拶《あいさつ》したがお岩は顔を見せなかった。伊右衛門は不思議に思ってそっと又市に、
「どうしたのでしょう」
と云うと、又市は、
「あいにく病気だと云うのですよ、でも大丈夫ですよ、すこし容貌《きりょう》はよくないが、縫物が上手で、手も旨いし、人柄は至極柔和だし」
と云った。伊右衛門は女房は子孫のために娶《めと》るもので、妾《めかけ》とし
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