皿屋敷
田中貢太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)番町《ばんちょう》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)ふとどき者|奴《め》
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番町《ばんちょう》の青山主膳《あおやましゅぜん》の家の台所では、婢《げじょ》のお菊《きく》が正月二日の昼の祝いの済んだ後の膳具《ぜんぐ》を始末していた。この壮《わか》い美しい婢は、粗相して冷酷な主人夫婦の折檻《せっかん》に逢《あ》わないようにとおずおず働いているのであった。
その時お菊のしまつしているのは主人が秘蔵の南京古渡《なんきんこわたり》の皿であった。その皿は十枚あった。お菊はあらったその皿を一枚一枚大事に拭うて傍《そば》の箱へ入れていた。と、一疋《いっぴき》の大きな猫がどこから来たのかつうつうと入って来て、前の膳の上に乗っけてあった焼肴《やきざかな》の残り肴を咥《くわ》えた。吝嗇《りんしょく》なその家ではそうした残り肴をとられても口ぎたなく罵《ののし》られるので、お菊は驚いて猫を追いのけようとした。その機《はずみ》に手にしていた皿が落ちて破《わ》れてしまった。お菊ははっと思ったがもうとりかえ
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