た。
「すみませんが、すこし休ましてくれませんか、愛宕下から歩いて来たもんだから、暑くつて仕方がないんです、」
「どうぞ、」
女はちよと俯向くやうにした。登は縁側に腰をかけて帽子を置き、外の方を見ながら無意識に額から首のまはりに手拭をやつた。
「このあたりに、茶店はないでせうか、」
「近頃迄、私の家で茶店をやつてましたが、お父さんとお母さんとが、本郷のお屋敷へ手伝ひにあがるやうになりましたから、止めました、」
「さうですか、」
「渋茶でよろしければ、差しあげませうか、」
「それはすみませんね、一杯戴きませうか、」
「おあげしませう、なんなら上へおあがりになつて、お休みになつたら如何でございます、奥の室が涼しうございますよ、」
登は女の云ふなりに奥の室へ行きたいと思つたが、気まりが悪いのですぐはあがれなかつた。
「さうですか、此方は木があるんですから涼しいでせう、」
「涼しうございますよ、おあがりなさいまし、芝からいらしたなら、お暑かつたでせう、」
「今日は馬鹿に暑かつたですよ、僕はこの先の、山木さんの所へ行くもんですがね、」
「あ、お屋敷でございますか、」
「さうです、党のことでと
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