翌晩狐はまた来た。
「これから東南に七里往くと、道ばたに落ちている金がある、早く往って拾ってくるがいいだろう」
車はその言葉に従って翌朝早く往った。果して二円の金が落ちていた。で、それを拾って佳い肴を買ってその晩の酒をたすけた。
狐はまた言った。
「この家の後ろに窖蔵《あなぐら》があるから、それを開けて見たまえ」
車は狐の言葉の通りに探してみた。果して窖蔵があって銭がたくさん入っていた。車は大いに喜んで言った。
「嚢中|已《すで》に自ら有り、漫《みだり》に沽《か》うを愁《うれ》うるなかれかね」
狐は言った。
「そうじゃないよ、車の轍《わだち》の痕にたまってる水は、そうたくさんはないからね、もすこしいいことを考えよう」
その次に逢った時、狐は車に言った。
「市場では錦葵《きんき》の値《あたい》がひどく安《やす》い、これこそめっけものだよ」
そこで車《しゃ》は錦葵を四十石あまり買った。人びとは皆それを笑ったが、間もなく大旱《だいかん》がして、穀物がそっくり枯れてしまい、ただ錦葵だけは植えることができた。そこで車は錦葵の種を売って十倍の利益を得、金もだんだんにできて、肥えた田を
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