となっていたよしみに、すこし除けてください、私は死にそうだ」
 鉢盂の中からそうした声が聞えて来た。と、その時李幕事が来て云った。
「和尚さんが、怪しい者を捉りに来たと云って見えたよ」
「それは法海禅師です、早くお通ししてください」
 李幕事は急いで出て往ったが、やがて法海禅師を伴れて入って来た。
「妖蛇《ようじゃ》はこの下に伏せてあります」
 禅師はそこで口の中で唱えていたが、それが終ると鉢盂を開けた。七八寸ぐらいある傀儡《にんぎょう》のようなものがぐったりとなっていた。禅師はその傀儡に向って云った。
「その方は、何故《なにゆえ》に人に纏《まつ》わるのじゃ」
「私は風雨のときに、西湖に来た蠎蛇《うわばみ》です、青魚《せいぎょ》といっしょになっておりましたところで、許宣を見て心が動いたので、こんなことになりました、それでも、曾《かつ》て物の命を傷《そこの》うたことがございませんから、どうか許してください」
「淫罪《いんざい》がもっとも大きいからいけない、それでも千年間修練するなら命は助かる、とにかく本《もと》の形を現すが宜い」
 と、傀儡《にんぎょう》は白い蛇となって、その傍に青い魚の
前へ 次へ
全65ページ中63ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング