の着ている衣服も、持っている扇子も、皆家内がくれたもので、決して盗んだものではありません」
 府尹《ふいん》は怒って叱《しか》った。
「詐《いつわ》りを云うな、そのほうがいくら詐っても、その衣服と扇子が確な証拠だ、それでも家内がくれたと云うなら、家内を伴れてくる、どこにおる」
「家内は吉利橋の王主人の家におります」
「よし、そうか」
 府尹は捕卒に許宣を引き立てさせて王主人の家へ往かした。家にいた王主人は、許宣が捕卒に引き立てられて入って来たのを見てびっくりした。
「どうしたと云うのです」
「あの女にひどい目に逢わされたのです、今、家におりましょうか」
 許宣は声を顫《ふる》わして怒った。
「奥様は、あなたの帰りがおそいと云って、婢《じょちゅう》さんと二人で、承天寺の方へ探しに往ったのですよ」
 捕卒は白娘子の代りに王主人を縛って許宣といっしょに府庁へ伴れて往った。堂の上には府尹が捕卒の帰るのを待っていた。府尹は白娘子を捕えて来た後で裁判をくだすことにした。府尹の傍には周将仕が来てその将来《なりゆき》を見ていた。
 そこへ周将仕の家の者がやって来た。それは盗まれたと思っていた金銀珠玉衣
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