しょうよ」
 許宣をはじめ傍にいた者は、またたきもせずに白娘子のきれいな顔を見ていたが、依然としてすこしも変らなかった。
「さあ、妖道士、どこに怪しい証拠がある、どこが私が怪しいのだ」
 道人は眼を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》って呆《あき》れていた。
「つまらんことを云って、夫婦の間をさこうとするのは、怪《け》しからんじゃありませんか、私がこれから懲らしてあげる」
 白娘子はそう云って口の裏で何か云って唱えた。と、彼《か》の道人は者があって彼を縄で縛るように見えたが、やがて足が地を離れて空《くう》にあがった。
「これで宜い、これで宜い」
 そう云って白娘子が口から気を吐くと道人の体は地の上に落ちた。道人は起きあがるなりいずこともなく逃げて往った。

 四月八日の仏生日《たんじょうび》が来た。許宣は興《きょう》が湧《わ》いたので承天寺《しょうてんじ》へ往って仏生会《たんじょうえ》を見ようと白娘子に話した。白娘子は新らしい上衣《うわぎ》と下衣《したぎ》を出してそれを着せ、金扇《きんせん》を持って来た。その金扇には珊瑚《さんご》の墜児《たま》が付いていた。
「早く往って
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