《よわい》をもて、御宮仕《おんみやづかえ》し奉らばや」と云った。豊雄は元より願うところであるが、「親兄弟《おやはらから》に仕うる身の、おのが物とては爪髪《そうはつ》の外なし、何を禄《ろく》に迎えん便《たより》もなければ」と云った。真女児は貴郎《あなた》が時どきここへ来ていっしょにいてくれるならいいと云って、金銀《こがねしろがね》を餝った太刀を出して来て、これは前《さき》の夫の帯びていたものだと云ってくれた。
 豊雄は真女児に是非泊ってゆけと止められたが、家へ無断で泊っては叱《しか》られるから、明日の晩泊ってもかまわないようにして来ると云って帰って来たが、朝になって兄の太郎《たろう》は、地曳網《じびきあみ》のかまえをするつもりで、外へ出ようと思って豊雄の閨房《ねや》の前を通りながら見ると、豊雄の枕頭《まくらもと》に置いた太刀が消え残《のこり》の灯《ともしび》にきらきらと光っていた。太郎は驚いて聞くと、某人《さるひと》からもらったものだと云った。父親も聞きつけてそこへ来、母親も来て詮議《せんぎ》すると、直接それを云うは恥かしいと云うので、太郎の妻がそれを聞くことになった。そこで、豊雄が真女
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