は四扇《しまいびらき》の隔子《かくし》になって一方の狭い入口には青い布《きれ》の簾《とばり》がさがっていた。小婢は白娘子に知らすためであろう、その簾を片手に掲げて次の室へ往った。許宣はそこに立って室の容《ようす》を見た。中央の卓《つくえ》の上に置いた虎鬚菖蒲《はししょうぶ》の鉢が、先《ま》ず女の室らしい感じを与えた。そして、両側の柱には四幅《しふく》の絵を掛《か》けて、その中間になった所にも何かの神の像を画《えが》いた物を掛けてあった。神像の下には香几《こうづくえ》があって、それには古銅の香炉《こうろ》と花瓶《かびん》を乗せてあった。
 白娘子が濃艶《のうえん》な顔をして出て来た。許宣はなんだかもう路傍の人ではないような気がしていたが、その一方では非常にきまりがわるかった。
「よくいらっしゃいました、昨日はまたいろいろ御厄介になりまして有難うございました」
「いや、どういたしまして、今日はちょっとそこまでまいりましたから、お住居はどのあたりだろうと思って、何人《だれ》かに訊いてみようと思ってるところへ、ちょうど婢さんが見えましたから、ちょっとお伺いいたしました」
 二人が卓に向きあって
前へ 次へ
全65ページ中26ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング