ゅう》に小さな包を持たせて雨に濡れて立っていた。
「張さん、乗っけてやろうじゃないか、困ってるじゃないか」
「そうですな、ついでだ、乗っけてやりましょうや」
船頭はまた舟を陸へやった。絹糸のような小雨の舳に降るのが見えた。
「どうもすみません、俄《にわか》に雨になったものですから……」
艶《なまめ》かしい声がして女達は舟へあがって来た。そして、※[#「女+朱」、第3水準1−15−80]な女の顔がもう苫屋根の下にくっきりと見えた。
「どうもすみません、お邪魔をさせていただきます」
女はおちついた物越しであいさつをした。許宣はきまりがわるかった。彼はあわてて女のあいさつに答えながら体を後《うしろ》の方へのけた。
「さあ、どうぞ」
女はそのまま入って来てその膝頭《ひざがしら》に喰《くっ》つくようにして坐った。女の体に塗った香料の匂《におい》がほんのりとした。許宣は眩《まぶ》しいので眼を伏せていたが、女の顔をはっきりと見たいと云う好奇心があるのでそろそろと眼をあげた。黒い潤《うる》みのある女の眼がじっと己《じぶん》の方を見ているのにぶつかった。許宣はあわててまた眼をそらした。
「あなた
前へ
次へ
全65ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング