を出て、石函橋《せきかんきょう》を過ぎ、一条路《ひとすじみち》を保叔塔の聳《そび》えている宝石山《ほうせきざん》へのぼって寺へと往ったが、寺は焼香の人で賑《にぎ》わっていた。許宣も本堂の前で香を燻《くゆ》らし、紙馬紙銭《しばしせん》を焼き、赤い蝋燭《ろうそく》に灯を点《とも》しなどして両親の冥福を祈った。そして、寺の本堂へ往き、客堂へあがって斎《とき》を喫《く》い、寺への布施もすんだので山をおりた。
山の麓《ふもと》に四聖観《しせいかん》と云う堂があった。許宣がその四聖観へまでおりた時、急に陽の光がかすれて四辺《あたり》がくすんで来た。許宣はおやと思って眼を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》った。西湖の西北の空に鼠《ねずみ》色の雲が出て、それが陽の光を遮《さえぎ》っていた。東南の湖縁の雷峰塔のあるあたりには霧がかかって、その霧の中に塔が浮んだようになっていた。その霧はまた東に流れて蘇堤《そてい》をぼかしていた。眼の下の孤山《こざん》は燻銀《いぶしぎん》のくすんだ線を見せていた。どうも雨らしいぞ、と思う間もなく、もう小さな雨粒がぽつぽつと落ちて来た。許宣は四聖観の簷下《
前へ
次へ
全65ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング