死体の匂い
田中貢太郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)面《ま》のあたり

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)天柱|拆《さ》け

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「鹿/(鹿+鹿)」、第3水準1−94−76]野《そや》な顔
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 大正十二年九月一日、天柱|拆《さ》け地維欠くとも言うべき一大凶変が突如として起り、首都東京を中心に、横浜、横須賀の隣接都市をはじめ、武相豆房総、数箇国の町村に跨がって、十万不冥の死者を出した災変を面《ま》のあたり見せられて、何人か茫然自失しないものがあるだろうか。
 世俗の怖れる二百|十日《とおか》の前一日、二三日来の驟雨《しゅうう》模様の空がその朝になって、南風気《みなみげ》の険悪な空に変り、烈風強雨こもごも至ってひとしきり荒れ狂うていたが、今思うとそれが何かの前兆でもあるかのように急にぱったり歇《や》んで、気味悪いほどに澄んだ紺碧の空が見え、蒔きずての庭の朝顔の花に眼の痛むような陽の光が燃えた。ち
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