場所を書いた札が建ててあった。今度は右側になった馬喰町三丁目の書肆の跡を見出そうと思い思い歩いた。焼け跡で鍬を持って掘っていたり、トタンの半焼けになったのを持って来て、仮小屋をこしらえていたりする者が多くなった。
小さな川があって橋がかかり、剣銃の兵士が数人立っていた。私は見るともなしに橋の左側から水の上を見た。蒲団や藁莚などの一めんに浮んだ中に人の死体が見えた。それはシャツ一枚の俯向きになった男で、両肱を左右に張って拳をこしらえ、それで両足の膝のあたりに力を入れているように足先をあげていたが、獺か猫かの死んでいるようであった。死体は五六間下手の方にもまだ一つ見えた。それは土人形のような感じのする死体で仰向けになって浮いていた。私は二人とも人間のような気がしなかった。
橋の左右の欄干に添うてたくさんの鉄棒や、一方を鎗のように削った竹などが置いてあった。一人の若い男が何か言ってその中から竹杖を拾って手にした。取ってかまわなければ自分も一本もらおうと思って、鉄棒を取りあげたところで、剣銃の兵士が来て、鉄棒を取ってはいけないと言って叱った。私はすぐその鉄棒が通行人の手から没収せられたもの
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