いう上諭《じょうゆ》があった。宋公はそこで自分は冥官《あのよのやくにん》に呼ばれているということを悟った。で、頭を地にすりつけて泣きながらいった。
「寵命《ちょうめい》を辱《かたじけの》うしたからには、どうして辞退いたしましょう。ただ私には七十になる老母があって、他に養う人がありません。どうか老母が天年を終るまで、お許しを願います。」
上の方にいた帝王の像《かたち》をした者がいった。
「それでは、老母の寿籍《じゅせき》を調べてみよ。」
そこで鬚《ひげ》の長い役人が帳薄を持って来て紙をめくって、
「人間世界の寿命がまだ九年あります。」
といった。そして、ちょっと言葉のきれた時、関帝がいった。
「それでは張生《ちょうせい》を代理にしておいて、九年の後に更代さすがよかろう。」
そこで宋公にいった。
「すぐ赴任さすことになっておるが、仁孝の心にめんじて、九年の時間をかそう。そのかわり、時間が来たならまた召《め》すから、そう心得よ。」
関帝は秀才を召して二、三勉励の言葉を用いた。終って宋公と秀才は下におりたが、秀才は宋公の手を握りながら、郊外まで送って来た。秀才は自分で長山《ちょうざん
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