あの男と一緒に舟に乗ってはいけませんよ。あれは時どき私を見るのです。それにあの目は、動いて色が変りますから、心がゆるされませんよ。」
金はそれを承知したが、王が心切に大きな舟をやとって来て、代って荷物を運んでくれたり、苦しいこともかまわずに世話をしてくれるので、同船をこばむこともできなかった。そのうえ若い細君を伴れているので、たいしたこともないだろうという思いもあった。そして一緒に舟に乗って、細君と庚娘とを一緒においていると、細君もひどくやさしいたちであった。
王は船の舳《へさき》に坐って櫓《ろ》を漕《こ》いでいる船頭と囁《ささや》いていた。それは親しくしている人のようであった。
間もなく陽が入った。水路は遥かに遠く、四方は漫漫たる水で南北の方角も解《わか》らなかった。金はあたりを見まわしたが、物凄いのでひどく疑い怪しんだ。暫《しばら》くして明るい月がやっとのぼった。見るとそのあたりは一めんの蘆《あし》であった。
舟はもう舟がかりした。王は金と金の父親とを上へ呼んだ。二人は室の戸を開けて外へ出た。外は月の光で明るかった。王は隙《すき》を見て金を水の中へつきおとした。金の父親はそ
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