とした。金は両親の消息が解らないので、いって探ろうとしていたから決しなかった。その時網で老人と老婆の尸《しがい》を曳《ひ》きあげた者があった。金は両親かも解らないと思ったので、急いで出かけていって験べた。果して両親であった。尹翁は金に代って棺をかまえた。金はひどく悲しんだ。
また人が来て、一人の溺れている婦人をすくったが、それは自分で金生の妻であるといっているといった。金は驚いて出ていった。女はもう来ていたが、それは庚娘でなかった。それは王十八の細君であった。女は金を見てひどく泣いて、
「どうか私を棄《す》てないでください。」
といった。金はいった。
「僕の心はもう乱れている。人のことを考えてやる暇はないのだ。」
女はますます悲しんだ。尹翁は精しく故《わけ》を聞いて、
「それは天の報《むくい》だ。」
といって喜び、金に勧めて結婚させようとした。金は、
「親の喪におりますから困ります。それに復讎《ふくしゅう》するつもりですから、女を伴《つ》れていては手足まといになるのです。」
といった。女はいった。
「もしあなたのお言葉のようだと、もしあなたの奥さんが生きていらしたら、復讎と喪のために離縁なさるのですか。」
尹翁はその言葉が善いので、暫く代って女を世話しようといったので、金もそこで結婚することを承知した。そして日を見て両親を葬った。女は喪服を着て泣いた。舅《しゅうと》姑《しゅうとめ》を喪った時のように。
すでに葬式が終った。金は刀を懐にして行脚《あんぎゃ》の僧に化けて広陵にいこうとした。女はそれを止めていった。
「私は唐《とう》という姓です。先祖から金陵におって、あの王の悪人と同郷です。あれが広陵といったのは嘘です、それにこのあたりの舟にいる悪人は、皆あれの仲間ですから、復讎することはむつかしいのです。うっかりするとあべこべに酷《ひど》い目に逢わされますから。」
金はそのあたりを歩きながら考えたが、復讎の方法が見つからなかった。忽ち女子が復讎したということが伝わって来て、その河筋《かわすじ》で評判になり、その姓名も精しくいい伝えられた。金はそれを聞いてうれしかったが、しかし両親が殺されまた庚娘が死んだことを思うとますます悲しかった。そこで女にいった。
「幸に汚されずに復讎してくれた。この烈婦の心にそむいて結婚することはできない。」
女はもう約束ができ
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