を透して見ることができた。
長者はその後、食事もしないで己《じぶん》の室で物思いに耽っている女の姿を見るようになった。長者は心配して乳母や侍女に就いてその原因を知ろうとした。そして、侍女の話を聞いて耳を傾けた。
その翌日、長者は売卜者を己の室へ呼んだ。
「折入って貴郎《あなた》にお願いしたいことがありますが、聞いてくださいましょうか」と云って、云いにくそうにして「女が貴郎のことを思うて、病気になりかけております、醜い娘でお気の毒ですが、その代りこの家の財産は、今日から一切貴郎にあげます、どうか女の婿になってください」
売卜者は醜い女《むすめ》の姿を何時の間にか見ていた。彼は厭で厭でたまらなかったが、恩人の詞をすげなく謝絶《ことわ》るわけにも往かなかった。彼はしかたなく承知してしまった。
「聞き入れてくださいますか、これは有難い、では、善は急げじゃ、今晩の中に仮祝言をしてください」
長者は喜んで家の者に命じて座敷の用意をさした。そして、それが出来ると売卜者と女を並べて仮祝言の盃をさした。売卜者は眼をつむるようにして女のほうは見なかった。女は醜い顔を伏せていた。
売卜者は義理に
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