、その家が商売を止めることになると、ちよとした金を貰つて、主人の姪で寡婦になつてゐた者と結婚して家を持つたのであつた。
(信平のことぢや、何をしてをつたか判つたことぢやない、もうそれまでに、自分でうんと拵へてをつたに違ひないよ、)
(貰つたと云つても、それやたいしたものぢやないよ、自分で拵へてをつたからさ、どうしてあの男は、子供の時から、一筋縄では行かない奴だつたよ、)
小さな時父親や知合の者がしてゐた叔父の噂を覚えてゐた。
(当節は、親子でも、兄弟でも、気が許されないのに、親類と云ふくらゐで、気を許しては駄目ですよ、)
義直には乳母の云ふ言葉の意味が好く判つてゐた。
(家の旦那がこんなになつたのも、理由がありますよ、ほんとに恐ろしいことですよ、)
養父は気が狂つて離屋の座敷牢の中にゐた。
(私はちやんと知つてますよ、それや、旦那のお父様も狂人で、皆が血統だと云ひますが、そんなことはありませんよ、私は、赤ちやんの時からお育てしましたが、お利巧な、落ついた方でしたよ、血統なんかぢやありませんよ、)
宮原の家は藤村の遠縁に当る家であつた、信平は其所の一人者の若主人の後見するやうにな
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