間を伴《つ》れて入って来た。皆おっとりした少年であった。そこには一人の僮《こども》がいて酒肴を列べて酒盛の仕度をした。閻ははじて頭をたれていた。四郎はそれに強いて酒を飲まそうとしたが、閻は恐ろしいのでどうしても飲まなかった。
 四郎はじめ三人の者は、互いに杯をさしあって酒を飲みながら、
「大兄。」
「三弟。」
 などと呼びあった。
 夜半ごろになって上座に坐っていた二人の少年は起って、
「今日は四郎に美人を以て招かれたから、この次は、かならず二郎と五郎を邀《むか》えて、酒を買って健康を祝そう。」
 といって出ていった。
 四郎は閻の手をとって幃《とばり》の中へ入っていった。閻はその手からのがれようとしたがのがれることができなかった。四郎が去った後で閻は羞《はじ》と憤《いきどお》りにたえられないので自殺しようと思って、帯で環をこしらえて縊死《いし》しようとしたが、帯が断《き》れて死ぬることができなかった。閻はそれにもこりずに死のうとしたが、そのつど帯が断れて死ぬることができないので、それを苦しいことに思った。
 四郎はいつも来ずに閻の体がよくなるのを待って来た。そのうちに二、三ヵ月たった。一家の者は皆生きた心地がしなかった。
 会稽《かいけい》に万《ばん》という姓の男があった。それは邵《しょう》の母がたのいとこであったが、強くて弓が上手であった。ある日万は邵の家へ来た。邵は客を泊める舎《へや》に婢や媼を入れてあるので、とうとう万生を内院《いま》へ伴れていって泊めた。
 その夜、万は枕についたが長い間寝つかれなかった。と、庭の中を人の歩いていくような気配がするので、窓からそっと窺《のぞ》いた。見ると一人の男が細君の室《へや》へ入っていくのであった。万は怪しいと思ったので刀を捉《と》ってそっといってのぞいた。
 細君の室には細君の閻と若い男が肩を並べ、肴を几の上に置いて酒盛をしようとしていた。万は火のように怒って、いきなり室の中へ入っていった。と、男は驚いて起ちあがった。万は刀を抜いて斬りつけた。刀はその男の頭蓋骨に中《あた》ったので、頭が裂けて※[#「足へん+倍のつくり」、第3水準1−92−37]《たお》れた。
 見るとそれは人間でなくて小さな驢《ろば》のような馬であった。万は愕《おどろ》いて、
「これは一たいどうしたのです。」
 といって訊いた。閻は五通神になやまされ
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