五通
蒲松齢
田中貢太郎訳

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)五通《ごつう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)二|疋《ひき》

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   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「足へん+倍のつくり」、第3水準1−92−37]《たお》れた
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 南方に五通《ごつう》というみだらにして不思議な神のあるのは、なお北方に狐のあるようなものである。そして、北方の狐の祟《たた》りは、なおいろいろのことをして追いだすことができるが、江蘇浙江《こうそせつこう》地方の五通に至っては、民家に美しい婦《おんな》があるときっと己《おのれ》の所有として、親兄弟は黙って見ているばかりでどうすることもできなかった。それは害毒の烈《はげ》しいものであった。
 呉中の質屋に邵弧《しょうこ》という者があった。その細君は閻《えん》といって頗《すこぶ》る美しい女であったが、ある夜自分の内室《いま》にいると一人の若い強そうな男が外から不意に入って来て、剣に手をかけて四辺《あたり》を見まわしたので、婢《じょちゅう》や媼《ばあや》は恐れて逃げてしまった。閻も逃げようとしたが、若い男はその前に立ちふさがっていった。
「こわがることはない。わしは五通神の四郎だ。わしは、あんたが好きだから、あんたに禍《わざわい》をしやしない。」
 そういって嬰児《あかんぼ》を抱きあげるように抱きあげ、寝台の上に置いた。閻は恐れて気を失ってしまった。五通神はやがて寝台からおりて、
「五日したらまた来るよ。」
 といっていってしまった。弧はその夜門の外で典肆《しちみせ》を張っていた。そこへ婢が奔《はし》って来て怪しい男の入って来たことを知らした。しかし弧はそれが五通ということを知っているので、そのままにしてあった。
 翌朝になって閻は病人のようになって起きることができなかった。弧はひどく心にはじて、家の者にいいつけて他人に話させないようにした。
 三、四日して閻はやっともとの体になったが、五日したらまた来るといった五通神の来るのを懼《おそ》れて、その夜は婢や媼を内室の中へ寝かさずに外の舎《へや》へやって、ただ一人で燭《ひ》に向って悲しそうにして待っていた。
 間もなく五通神の四郎は二人の仲
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