ていたことを話して、それから、
「今にこの仲間が来ることになっているのです、どうしたらいいでしょう。」
 といった。万は手を振って、
「いいのです。声を出さずに、そっとしていらっしゃい。」
 といって、燭《ひ》を消して弓を構え、暗い中に身をかくして待っていた。
 間もなく四、五人の人が空から飛びおりて来た。万は急いで矢を飛ばした。その矢は先に立っていた者を殪《たお》した。すると後の三人が吼《ほ》えるように怒って、剣を抜いて弓を射た者を捜しだした。万は刀をかまえて扉の後にぴったり脊《せ》をくッつけて、すこしも動かずに待っていた。そこへ一人が入って来た。万はその頸《くび》に斬りつけた。相手はそのまま殪れてしまった。万はそこでまた扉の後へ背をくッつけて待っていたが、長い間待ってももう入って来る者もなければ声もしないので、出ていって扉を叩いて邵に知らした。
 邵はひどく驚いて入って来て、一緒に燭を点《つ》けて見た。室の中には彼の馬と二|疋《ひき》の豕《ぶた》が死んでいた。
 一家の者は喜びあったが、討ちもらした二つの怪しい物が復讎《ふくしゅう》に来るかも判らないので、万にいてもらうことにして、その豕を焼き馬を煮て御馳走をこしらえたが、その味はいつもの料理とちがってうまかった。
 万生の名はそれから高くなった。万はそこに一ヵ月あまりもいたが、もう怪しいこともないので、そこで別れて帰ろうとした。その時材木商の某《なにがし》という者があって、万を自分の家へ招待した。その材木商の家にはまだ嫁にいかない女があったが、ある日不意に五通が来た。それは二十歳あまりのきれいな男であった。その五通は女を細君にするといって、百両の金を置いて日を決めてから帰っていったが、その期日もすでに迫って来たので、一家の者はおそれまどうているうちに万生の名が聞えて来た。一家の者は万に来てもらって五通の禍を除いてもらおうと思ったが、厭といわれるのが恐ろしいので、その事情はかくして饗燕《きょうえん》にかこつけて招待したのであった。
 そんな事とは知らない万は、材木商の家へ招待せられていって、酒盛が終ったので帰ろうとしていると、きれに化粧した女が出て拝礼をした。それは十六、七の可愛らしい女の子であった。万はひどく驚いて故《わけ》は解らないが急いで起って礼をかえした。主人の材木商は強《し》いて万をもとの席に就《つ》か
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