であった。老人は後ろの方にあった帷《とばり》の方を見返って荒い声を出した。
「珊珊《さんさん》、お客さんに御挨拶にくるがいいよ」
焦生が元の座に戻ったところで十五六の綺麗な女の子が出てきた。老人は女の子の肩に手をかけた。
「これが私の女《むすめ》でございます、どうかお見知りおきを願います」
老人はそれから老婆に御馳走の用意をさした。老婆は室《へや》を出たり入ったりして酒や肴を持ってきた。
準備《したく》が出来ると老人はそれを焦生にすすめた。女の子は母の傍に坐っていた。若い焦生は女の子の方に心をやっていた。
「お客さんは、くたびれておいでだろうから、寝床を取ってあげるがいい」
老人が女の子の顔を見ると、女の子はにっと笑いながら、その室の一方についた寝室へ入って往った。
老人と老婆はいつの間にか室を出て往って、焦生独りうっとりとなっていた。寝床を取ってしまった女の子はそっと傍に寄ってきて、焦生の縋っている※[#「卓」の「十」に代えて「木」、第4水準2−14−66]《たく》を不意にがたがたと動かした。焦生はびっくりして眼を開けた。
「お休みなさいまし」
「ありがとう、あんたはいくつ
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