」
「十六よ」
「もう、お婿さんがきまっておりますか」
女の子は怒るような口元をして笑って見せた。焦生は紅い女の袖をつかもうとした。女の子は後ろに飛びのいた。焦生は為方《しかた》なしに笑って寝室の方へ歩いた。
焦生は女の子のことを考えているうちに眠ってしまった。そして、咽喉がほてって苦しくなったので眼を覚ました。
「茶を持ってこい、茶を持ってこい」
焦生はいつも僕を呼びつける詞を習慣的にだしてあとでしまったと思った。女の子が茶を持ってすぐ来た。
「や、どうもすみません、僕を呼びつけているものですから、ついうっかり言いました」
「いいのよ、お茶を召しあがるだろうと思って、こしらえてあったのですもの」
女の子はそう言いながら枕頭《まくらもと》へ茶碗を置いた。焦生はその手をそっと握った。
「いやよ」
女の子は逃げようともせず口元で笑っていた。
老婆の声が次の室でした。女の子は焦生の手を振り放して出て往った。
焦生はきまりが悪いので、茶を飲むことを忘れて後悔していた。そのうちに夜が明けてきた。焦生は彼方此方に寝がえりしていた。
「眠ってるの、今日は雪よ」
焦生は眼を開けた。女の
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