酪《そらく》があるので口にしようとした。窈娘は急いでその手をおさえた。
「すこし待ってください、どうもすこし怪しいことがありますから」
窈娘はその飲物を取って庭前《にわさき》に遊んでいる犬の前へ捨てた。犬は喜んでそれをべろべろと嘗めはじめたが、皆まで嘗めないうちに唸声を立ててひっくりかえって死んでしまった。
「これは、奥さんのやったことですよ」
焦生は珊珊を悪魔のように思いだしたが、すぐ放逐するわけにもいかなかった。そのうちに、焦生の悪政が中央へ知れて、今にも罪を得そうになってきた。焦生は腹心の客と相談して、権力のある中央の大官に賄賂を入れてその罪を遁《のが》れようとした。そこで、莫大な金を出して、王鼎《ぎょくてい》と冬貂《とうてん》を買い入れたが、買った晩に鼎が破れ、裘《けごろも》が焼けてしまった。窈娘はそれを珊珊の仕業だと言った。焦生は狂人のようにして杖で珊珊を打ち叩いた後に、外へ突き出してしまった。
賄賂がゆかなかったために、焦生は罪を得て雲南軍の卒伍《そつご》の中へ追いやられることになった。三人の監者《かんしゃ》が焦生を送って、鳳凰庁下《ほうおうちょうか》の万山という山
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