おりますが、まだそうした家が見つかりません」
「甚だ失礼ですが、私にくださいますまいか」
「ほんとうにあなたがもらってくださるなら、喜んでさしあげます」

 焦生はその夜珊珊と結婚したが、翌日になると珊珊を馬に乗せ、自分達二人は徒歩で出発した。
 やがて目ざす都へ往って、其処で家を借りて落着き、進士の試験を受けてみると、うまく及第して、会稽《かいけい》の令に任ぜられた。で、珊珊を伴《つ》れて赴任したが、非常に成績があがったので、翌年には銭塘《せんとう》の太守となった。そうなると、焦生の許《もと》へはたくさんの客がくるようになった。客の中には焦生を利用して、私腹を肥やそうとする者もあった。珊珊はそんな客は中に入れないようにした。客の方では珊珊を邪魔者にして、金を集めて窈娘《ようじょう》という妖婦を購《あがな》って焦生に献上した。焦生は窈娘の愛に溺れて珊珊を顧《かえりみ》なくなるとともに、政事も怠りだした。
 窈娘は焦生を自分の者にしたものの、珊珊が傍にいては邪魔になるのでそれをのけようとした。そこで窈娘は飲物の中へ毒を入れて待っていた。何も知らない焦生は、窈娘の室へ来て見ると、旨そうな酥
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