、主人はきかなかった。客は慙《は》じたようなふうであった。客はまた言った。
「胡も家柄ですよ、そうあなたの家に劣るものじゃありませんよ」
 すると主人が言った。
「それではありのままに言いますが、私が結婚させないのは他に意味はないが、ただ胡先生は人間ではありませんから」
 客は怒った。
「それは無礼です」
 主人も怒った。
「何が無礼だ」
「けしからんことをおっしゃる」
「何がけしからん」
「けしからんです」
 二人は猛りたった。客はいきなり主人の顔をひっ掻いた。主人は家の者を呼んで、杖で撲《なぐ》ろうとした。客は驚いて遁《に》げて往った。乗って逃げる隙もなかったとみえて驢はそのままにしてあった。側へ往ってみると黒毛の耳の高い尾の長い大きな驢であった。そこで手綱を解いて曳っぱったが動かなかった。そして何人《だれ》かが乗ろうとすると、そのままつくばってしまった。それは蝗《いなご》のような虫であった。
 主人は客が怒っていたので、きっと復讐にくるだろうと思って用心していた。翌日果して一隊の狐兵がおし寄せてきた。馬に乗った者もあれば徒歩でいる者もあって、それが戈《ほこ》を持ち弩《いしゆみ》を持っていた。馬の嘶《いなな》く声と人声が家の周囲に湧きたって聞えた。
 主人は外へ出なかった。
「家に火をつけろ」
 と言った。主人はますます懼《おそ》れた。その家に強い男がいた。家の者を従えて騒ぎながら打って出て、石を投げ箭《や》を飛ばして狐兵に当った。そして必死になって戦ったので双方に負傷者を出したが、そのうちに狐の方が負けてきて、ごたごたとなって逃げてしまった。その跡に狐の方で落して往った刀が雪のように光っていた。側へ往ってひろってみると、それは高粱《こうりゃん》の葉であった。皆が笑って言った。
「狐の腕前もこれ位のものだよ」
 そして狐のまたくるのを恐れてますます備えをしていた。翌日家の者が聚《あつま》って話していると、見あげるような大きな男が不意に空からおりてきて、手にしていた門の扉のような大きな刀を揮《ふる》って斬りかかってきた。家の者はもう一人|逐《お》いつめられて斬られた。家の者は弓や射石を投げて巨人を中にとりこめて乱撃した。巨人は斃れてしまった。それは葬式の時に用いる藁人形であった。家の者はますます狐をあなどった。
 狐はそれから三日間はこなかった。家の者はすこし懈《
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