ございますよ、たしかに男でしたが」
 其処へ新一が起きて来た。
「また来たのか、しまったなあ」

       二

 その翌晩は奥の室へも行灯を点けて、新一と老婆が境の襖を多く開けて警戒していた。新一は己《じぶん》の守刀の短刀を寝床の下へ敷いてあった。
 お滝はもう睡ったのか咳《しわぶき》の声も聞えなくなった。新一と老婆は己達が睡ると、また彼《あ》の怪しい奴が来るとおもったので、なるだけ睡らないようにと、小声で話し合ってみたり、顔を見合せたりしていたが、そのうちに老婆の方は昼の疲れが出て来たのか睡ってしまった。新一は姨《おば》さんが睡っても、己は決して睡るまいと思って気を張っていたが、これも気を張ったなりに何時の間にか睡ってしまった。
「……起きてくださいよ……、坊ちゃん……、……坊ちゃん」
 新一は肩のあたりを揺り動かされて眼を覚したが、その起している者が姨《おば》さんだと云うことを知ると、きっと怪しい奴が来ているなと思った。
「来たのかい」
「お媽《かみ》さんがいないのですよ、何処《どっ》かへ往ったのでしょうかね」
 新一は跳び起きて表座敷の方へ往った。母親の寝床があるばかりでそ
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