幻術
田中貢太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)某《ある》
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寛文十年と云えば切支丹で世間が騒いでいる時である。その年の夏、某《ある》城下へ二人の怪しい男が来て、不思議な術を行って見せたので、藩では早速それを捕え、死刑にすることにして刑場へ引出したが、切支丹ではどんな魔法があって逃げだすかも判らないと云うので、警護の士《さむらい》が厳しく前後を取り囲んでいた。また刑場の四方には竹矢来を結って、すこしの隙もないようにしてあった。見物人はその周囲に人山を築いていた。
刑場の真中には磔の柱が二本鬼魅悪く立っていた。二人の罪人はその下に引き据えられた。と、罪人の一人が云った。
「こんなに厳しくせられては、とても私達は逃げることはできません、もう覚悟をきめておりますが、ただ一つしのこしている術がありますから、すこし縄をゆるめてください、それを人に見せたうえで、心残りのないようにして死にとうございます」
臨場の役人はこれを聞いて相談した。その結果こんなに厳重に警固しているうえは、いくら切支丹でも逃げることは思いもよらないから、願いを聞いてやっても好いと
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