きないものですから、暫く夫婦になっておりました、これからは慶娘と興哥さんを夫婦にしてください、そうすれば、慶娘の病気もすぐ治ります」
こう言った慶娘の声も物腰も興娘そのままであった。
「お前の心情は察するが、何故、そんな人を驚かすようなことをする」
防禦は叱るように言った。
「興哥さんとの縁が尽きないものですから、一年の許しを受けて、興哥さんと夫婦になっておりました、どうか私の今のお願いを聞いてください」
「よし、では、慶娘と興哥さんをいっしょにして、この家を譲ることにする」
慶娘は泣きだした。そして、興哥にすがりついた。
「あなたは慶娘を可愛がってやってください、でも、私も忘れないように」
慶娘は悲しそうに泣き入ったかと思うと、そこへ倒れてしまった。皆が驚いて介抱していると眼を開けた。
慶娘の病気はその場かぎり治ってしまった。慶娘はその日、自分の言ったことも、したことも覚えていなかった。
防禦は日を選んで、興哥と慶娘を結婚さした。
興哥はかの釵を売って鈔金二十錠を得、その金で揚州の城東にある后土廟へ往って、道士に頼んで三昼夜興娘の祭をした。
祭がすむと夢に興娘が出てきて、祭の礼を言い、慶娘のことを頼んだが、それからはもう不思議もなくなった。
底本:「中国の怪談(一)」河出文庫、河出書房新社
1987(昭和62)年5月6日初版発行
底本の親本:「支那怪談全集」桃源社
1970(昭和45)年発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:Hiroshi_O
校正:noriko saito
2004年11月3日作成
青空文庫作成ファイル:
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