るので、家の横手へ往って戸の隙から中を窺いてみた。
 七人の旅人は卓に向きあってその餅を旨そうに喫っていた。そして、間もなく餅がなくなってしまった。旅人の中にはもう二人ほど牀《こしかけ》から起ちあがった者があった。べつに怪しいこともなさそうだと季和は思った。と、腰をあげた二人の旅人が急にひっくり覆《かえ》って身悶えした。他の旅人も続いてばたばたとひっくり覆った。季和は眼を瞠《みは》った。驢馬の鳴声が続いて起った。六七疋の驢馬が卓のまわりに立って旅人の姿はもう見えなかった。
 驢馬は室の中を歩きだした。婆さんが鞭を持ってきて、その驢馬を叩き叩き裏口の方へ通じた扉を開けて外へ追い出して往った。

 季和は東都からの帰りに再び三娘子の家へ往った。彼が不思議なことを見せられている婆さんの処へ往ったのは考えがあったからだ。
「これは、いつかのお客さんでございますか、ようこそお寄りくださいました」
 婆さんは愛嬌《あいきょう》を見せながら季和を迎えて前《さき》に来ていた二三人の客といっしょに夕飯を喫わせた。
 その晩も五六人の旅人があった。飯がすむと皆がいっしょの室へ入って寝た。考えを持っている季
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