思って八個の数を浮べた時、自個達旅人もちょうど八人だということを考えだした。では旅人に出すためだろうか、何のためにあんなことをして造《こしら》えた餅を喫《く》わするだろう、これには何か理由がなくてはならない。季和は恐ろしい気がした。

 いつの間にか夜があけた。客は皆起きて出発の準備《したく》をしはじめた。ちょっとの間うとうととしていた季和は、その物音に気が注《つ》いて起きた。
 婆さんが入ってきた。婆さんは人の好い顔をしていた。
「皆さん、お準備ができましたら、温かい餅ができておりますから、おあがりなさい」
 旅人は皆手荷物を持って入口の方へ出て往った。季和は餅というのは気味の悪いあの餅ではないかと思った。あの餅なら決して口にしてはならないと思いながら皆に随《つ》いて往った。
 八個の大きな餅が卓の上に置いてあった。それはかの気味の悪い餅であった。
「せっかくでございますが、私は夜明|比《ごろ》から、腹が痛くて何もたべたくありませんから」
 季和は幾らかの金を出して婆さんの手に載せ、そのまま外へ出てしまった。出てしまったもののその餅をたべた旅人が、どんなになるだろうかという好奇心があ
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