て見えた。季和はどんな者が隣にいるだろうかとちょっとした好奇心を動かした。彼は寝床から這いだして壁の穴から窺《のぞ》いてみた。
不思議な光景が季和の眼に映った。竈《へっつい》の前に坐った婆さんが、六七寸ばかりある木の人形を二個《ふたつ》前に置いて、それに向って両手の指を胸の処で組み合せてまじないでもするようにしていた。季和は変なことをするものだと思って眼もひかずに見ていた。
婆さんは祈をすました。祈がすむと起ちあがって、傍にあった水桶から杓《ひしゃく》を取り、その水を一口飲んで人形に吹きかけた。人形は人の形をしたのと牛の形をしたのとであった。
人形に水をかけてどうするだろうと季和は思った。そう思って季和が人形に注意を向けたときであった。今まで横になっていた人形が魂の入ったようにむくむくと動きだした。すると、婆さんは傍にあった小さな箱の中へ手をやって、小さな鍬《くわ》や鋤《すき》の形をした物を出して前に置いた。
季和は体が硬ばったようになった。人形はその鋤を牛につけ、その牛を走らしてそのまわりを耕しはじめた。牛の後で人形は鍬を持った。まわりは見る見る耕地になって往った。婆さんはま
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