って喫《く》った。
 食事がすむと皆が一緒になって次の室へ往って寝た。室の中には燈火が一つ点いていた。食事の時から話していた話をそこへまで持ってきて、大声で話しあっていた男の声もやがて聞えなくなった。鼾《いびき》の声があっちこっちに聞えてきた。
 季和は眼が冴えて睡れなかった。彼は右枕になってみたり、左枕になってみたりして身体を動かしていた。扉《と》を開ける音がして何人《だれ》かが入ってきた。それは婆さんであった。婆さんは皆の寝姿を一通り見ておいて、燈火を持って往こうとした。婆さんの眼と季和の眼が合った。
「早くお寝みなさいよ、よく寝ないと、明日苦しいから」
 季和はちょっと頷いて見せた。婆さんは出て往った。後は真暗になってしまった。季和は早く睡ろうと思って無理に眼を閉《つむ》って、何も考えないようにして睡ろう睡ろうとしたが、そんなことをするとなおさら睡れない。半時《はんとき》あまりもそんなにしていたが、苦しくてしかたがないのでまた左枕に枕を変えた。
 ぶつぶつと言うような声が聞えた。それは隣の室からであった。そこは荒壁になっていて土の崩れた壁の穴から隣の室の燈火が滲みだしたように漏れ
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