蟹の怪
田中貢太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)戸波《へは》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)姉様|冠《かぶ》り
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「女+朱」、第3水準1−15−80]《きれい》な顔
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お種は赤い襷をかけ白地の手拭を姉様|冠《かぶ》りにして洗濯をしていた。そこは小さな谷川の流れが岩の窪みに落ち込んで釜の中のようになった処であった。お種は涼しいその水の上に俯向いて一心になって汚れ物を揉んでいた。
そこは土佐の高岡郡、その当時の佐川領になった長野から戸波《へは》へ越す日浦坂の麓であった。そして、お種の洗濯している谷川の流れは、日浦坂の上にある、ほど落ちと云う池から来ているもので、流れは小さいが如何なる炎天にも枯れることがないと云われていた。
谷川の縁には薊の花が咲き青芒の葉が垂れて、それが流れの上にしなえて米粒のような泡をからめていた。お種はもう三枚目の衣《きもの》を洗いあげて絞って岩の上に置き、
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