いる者であった。お種と母親は表座敷に行灯《あんどん》を点けて麻をつないでいた。伝蔵は竹の簀子を敷いた縁側にあがって、その背の高いがっしりした体を見せていた。伝蔵は角力が上手で二見潟と云う名乗を持っていたが、体に似合わないおとなしい壮佼《わかいしゅ》であった。
「お種さんは、今晩うかん顔をしておるが、どうした」
伝蔵は白い※[#「女+朱」、第3水準1−15−80]《きれい》な顔をうっとりとさして麻をつないでいるお種の方を見た。
「うウ」
お種はそう云ったばかりで伝蔵のほうを見向きもしなかった。
「お種はよっぽど、どうかしておるよ」
母親は伝蔵の顔を見て云った。平生《いつも》であったら伝蔵がこうして仕事の帰りに寄ると、お種は、
「もうすこしおってもいいじゃないか」
と、云って夜おそくまで引止めて話すのが常であった。
「どうしたろう」
「この二三日、どうもおかしい」
伝蔵は母親と暫く話していたが、どうしてもお種が対手にならないので、淋しそうな顔をして帰って往った。
翌朝になってお種が一二枚の洗濯物を持って出かけようとするので、裏の納屋の口で麦の穂をこいていた母親が止めた。
「一
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