「待て待て、崎《さき》の浜《はま》の鍛冶屋《かじや》の婆《ばんば》じゃの、海鬼《ふなゆうれい》じゃの、七人|御崎《みさき》じゃの、それから皆がよく云う、弘法大師《こうぼうだいし》の石芋《いしいも》じゃの云う物は、皆|仮作《つくりごと》じゃが、真箇《ほんと》の神様は在るぞ」
 総之丞は眼を円くした。
「在りますか」
「在るとも」
 総之丞はもう何も云わなかった。総之丞は権兵衛の精神家らしい気もちを知っていた。権兵衛は歩きだした。総之丞も黙って跟《つ》いて往った。

       二

 六七人の人夫の一群が前方《むこう》から来た。礁《はえ》の破片《かけら》を運んでいる人夫であるから、邪魔になってはいけないと思ったので、権兵衛は体を片寄せて往こうとした。其の人夫の先頭に立った大きな男の背には一人の人夫が負われて、襦袢《じゅばん》の衣片《きれ》で巻いたらしい一方の手端《てくび》を其の男の左の肩から垂らしていた。そして、其の大きな男の後《うしろ》にも枴《おうこ》で差し担った簣《あじか》が来ていたが、それにも人夫の一人が頭と一方の足端《あしくび》を衣片《きれ》でぐるぐる巻きにして仰臥《あおむけ
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