また掘りあげた沙や砕いた礁の破片《かけら》は陸へ運んでいたが、それが堰堤の上に蟻《あり》が物を運ぶように群れ続いていた。
 権兵衛は所有《もちまえ》の烈しい気象を眉にあらわしていた。はかどらなかった難工事も稍緒《ややちょ》に就いて、前年の暮一ぱいに港内の掘りさげが終ったので、最後の工事になっている岩礁を砕きにかかったところで、思いの外に岩質が硬くて思うように砕けなかった。それに当時の工事であるから、岩を砕くにも大小の鉄鎚《かなづち》で一いち打ち砕くより他に方法がないので、それも岩礁砕破の工事の思うようにならない原因の一つでもあった。
 堰堤の外側には鴎《かもめ》の群が白い羽を夕陽に染めて飛んでいた。陸《おか》の畑には豌豆《えんどう》の花が咲き麦には穂が出ているが、海の風は寒かった。権兵衛は沙や礁の破片《かけら》を運ぶ物[#「運ぶ物」はママ]を避け避けして往った。沙を運ぶ者は、笊《ざる》に容れて枴《おうこ》で担い、礁の破片を運ぶ者は、大きな簣《あじか》に容れて二人で差し担って往《ゆ》くのであった。
「よいしょウ、よいしょウ」
「おもいぞ、おもいぞ」
「いそぐな、いそぐな」
「急いでもわれ
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