衛は一枚の半紙を取って筆を走らせ、それを封筒に容れて表に津寺方丈《つでらほうじょう》御房《ごぼう》と書き、そして、それを硯《すずり》の下へ敷いた。
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    口上書を以て残候事《のこしそうろうこと》
港八九は成就《じょうじゅ》に至《いたり》候得共《そうらえども》前度《せんど》殊《こと》の外《ほか》入口|六ヶ敷候《むずかしくそうろう》に付|増夫《ましぶ》入而《いれて》相支候得共《あいささえそうらえども》至而《いたって》難題至極と申《もうし》此上は武士之道之心得にも御座|候得《そうらえ》ば神明へ捧命《ほうめい》申処《もうすところ》の誓言《せいげん》則《すなわち》御見分の通《とおり》|遂[#二]本意[#一]《ほんいとげ》候事《そうろうこと》一日千秋の大悦《たいえつ》拙者《せっしゃ》本懐《ほんかい》之|至《いた》り死後御推察|可[#レ]被[#レ]下《くださるべく》候《そうろう》 不具《ふぐ》
 十六日
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[#地から4字上げ]一木権兵衛政利 花押《かおう》
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  津寺方丈 御房
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 其の夜は月があったが
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