も」
 権兵衛は仰臥《あおむけ》になっていた。夜はもう白《しら》じらと明けていた。
「一木殿、御気分は」
 権兵衛は眼を開けた。
「気分は何ともない」
「それでは、また気つけでも」
「いや、待て」
 と云って権兵衛は眼をつむって何か考えるようにした。
「それでは、馬にお乗りになりますか」
「すこし考える事がある、気の毒じゃが、また戸板へ載せて引返してくれ」
 権兵衛はまた戸板に載って引返したが、帰りついてみると体は元のとおりになっていた。そこで権兵衛は己《じぶん》の代理として、総之丞に二三の下僚をつけて高知へやり、己は普請役所に留まっていると、十日ばかりして下僚の一人が引返して来て、藩庁の報告は滞《とどこお》りなく終ったと云った。
 それは延宝七年六月十六日の事であった。権兵衛は其の時、普請役所に残っていた武太夫を呼んだ。
「釜礁《かまばえ》を割る時に、お願をかけて、其のままになっておる。今晩は其のお願ほどきをする、準備をしてくれ」
 武太夫もお願のかけっぱなしはいけないと思った。
「早速そういたしましょう、お願のかけっぱなしはいけません」
「それでは頼む」
 武太夫が出て往くと、権兵
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