「呼んだ」
「何か御用でございますか」
「総之丞はおるか」
「浜の方へ出て往きましたが、何か御用が」
「それじゃ、総之丞でなくてもええ、神様のお祭をするから、白木の台と、あ、台は普請初めの時にこしらえたものがある、それから雉子《きじ》か山鳥が欲しいが、それは無いかも知れんから、鶏の雌と雄を二羽買い、蜜柑も柿もあるまいから、芋でも大根でも、畑に出来る物を三品か四品。幣束《しで》も要る、皆《みんな》と相談して調《ととの》えてくれ」
「何時《いつ》お祭をします」
「すぐ今晩するから急いでくれ」
「何処でします」
「港の口じゃ。供物が出来たら、港の口へ幕を張って、準備《したく》をしてくれ」
「よろしゅうございます」
 清吉が往こうとすると権兵衛が留めた。
「待て」
「へい」
「それから、供物の台は、沖の方へ向けて、つまり海の方へ向けるぞ」
「承知しました」
「普請初めの時のようにすればええ。判らん処があれば、総之丞が知っておる、総之丞に聞け」
「よろしゅうございます」
「それから、松明《たいまつ》の準備《したく》もしておいてくれ」
 落日に間のない時であった。清吉は急いで出て往った。権兵衛は腕
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