が生えていた。其処は緩い傾斜になって夫其の登り詰《づめ》に松林があり普請役場の建物があった。其の役所の向前《むこう》は低い丘になって、其処に律照寺《りっしょうじ》と云う寺があったが、浜の方から其の寺は見えなかった。其の律照寺は四国巡礼二十五番の納経所《ふだしょ》で、室戸岬の丘陵の附根にある最御崎寺《ほずみさきじ》の末寺で、普通には津寺《つでら》の名で呼ばれていた。
権兵衛は役所の近くまで往った。其処に二疋の馬がいて傍に陣笠を冠った旅装束の武士が二人立ち、それと並んで権兵衛の下僚《したやく》の者が二三人いた。権兵衛は急いで陣笠の武士の傍へ往った。武士の一人は国老《かろう》の孕石小右衛門《はらみいしこえもん》であった。
「これは御家老様でございますか」
「おお、権兵衛か」
「承《うけたま》わりますれば、殿様がお成りあそばされたそうで、さぞお疲れの事と存じます」
「なに、急に御微行《ごびこう》になられる事になって、今朝城下を出発したが、かなりあるぞ」
「二十里でございますから、お疲れになられましたでございましょう、それで殿様は」
「東寺《ひがしでら》へずっとお成りになった」
東寺は最御崎
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