もし、あれにこんなことが知れたら、あんな口はばつたい事を云つておきながら、男らしくない未練な奴だと笑はれる、全体、樺太から帰つて一ヶ月にもなるが、仕事の車力も挽かずに、毎日酒を飲んだり、ごろ寝をしたり、のらくらしてゐる、何のためだ、やつぱりあれに未練があるからだらう、俺は男らしくない、あれに笑はれる、もうこんなことは止さなくてはならんぞ、」
 源吉はかう思ひながら暗い足元を見た。赤土と砂利の交つた足元の土がこの時浮きあがるやうな気がした。
「をかしいな、」と、源吉は不審した。そして俺は今晩どうかしてゐるのではないかと思つて片手を額にやつてみた。手は冷くひやひやしてゐた。
「帰らう、なんと思つた所で、自分の所有でない、男らしく帰らう、」と自分で自分に命令するやうにつぶやいた。彼の足には自然と力が這入つた。
 別荘の裏門はもう眼の前にあつた。源吉はちらとそれに眼をやつた。扉が半開きになつてゐて白い顔が見えた。源吉はびつくりして立ち止つた。手の恰好から姿がどうしても彼の女であつた。源吉は吸ひ寄せられるやうにその方へと進んで行つた。女は藍色の着物を着てゐた。
 源吉は扉の際へと行つた。と女の体
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