男はまた飛び起きてしまつた。
「何をするんだよ、何を、」
彼は驚いて体にまつはつた男の手を振り放さうとした。と、激しい圧迫が肩のあたりにあるのに気が付いた。
「おい、おい、どうしたんだ、夢を見たんだな、眼を覚ますが好い覚ますが好い、」
太い青黒い顔が此方を見て口元を黄色くさしてゐた。お高は吐息をした。
「夢を見たのか、」
「ええ、厭な夢を見ました、」
「どんな夢だ、」
青黒い顔は笑ひ声をさした、酒臭い臭がふはりと鼻に滲みた。
「判らないが、厭な夢でしたよ、」
お高は青黒い顔から眼をそらして、天井の方を見た。白い蚊帳に青いランプの光がぼんやりと射してゐた。
便所から帰つて来て床に這入つた青黒い顔の男は、右側の蒲団にくるまつて寝てゐる女の横顔に眼をやつた。蚊帳越しに青く射したランプの光は女の顔を綺麗に見せてゐた。女は何か云つてゐるやうに口元を動かしてゐた。
「また、今晩も、何か夢を見てゐるんだな、」と男は笑ひ心地になつて見てゐた。男の眼は綺麗な透通るやうに見える女の顔から離れなかつた。
その時女は唸るやうな叫び声を出した。
「おい、おい、どうした、どうした、」
「大変です
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