大声が耳に這入つた。彼は頬杖を放して顔を畳の上に落したところであつた。彼は急いで顔をあげながら眼を開けてあたりを見た。庭の花壇の傍で水をやつてゐた下男の作平爺が、如露を持つたなりに振り返つて、不思議さうに此方を見てゐた。
薄暗いランプの光りを受けた眼がぎらぎらと光つた。
「また来やがつたな、怪物奴、」
何故自分を怪物だなどと云ふうだらうとちよつと考へてみたが判らない。
「何故、そんなことを云ふの、お高だよ、怪物ぢやないよ、」
「怪物だ、正体をちやんと見届けてあるぞ、」
「何を見届けたの、云つておくれ、何んで私が、怪物だよ、」
「怪物だ、怪物と云つたら怪物だ、」
やはりそれも病気の所為だどうかしてこの病気が癒らないだらうか。
「病気だよ、お前さん、病気だから、そんなことを云ふんだよ、早く病気を癒しておくれ、」
「まだ、そんなことを云ふか、この怪物、殺してしまうぞ、」
一層殺して貰ふた方が好い死んでしまへばこんな苦しいこともない。
「殺されても好いよ、私は殺されても好いが、お前さんの病気が心配だ、早く癒しておくれよ、お金は私がどうでもする、」
「この怪物、本当に殺してしまふぞ、」
前へ
次へ
全17ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング