。僕が引き受けた。」
呉はそういって帰っていった。王はそれから食事が次第に多くなって、日に日に癒《なお》っていった。そして思いだしては枕の底を探して彼《か》の梅の花を出した。花は萎《しお》れていたけれどもまだ散っていなかった。王は彼の女のことを考えながら、それが彼の女でもあるようにその花をいじった。
王は呉の返事を待っていたが呉が来ないので、ふしんに思って手紙を出した。呉は用事にかこつけて来なかった。王は怒って悶えていた。母親はまた病気になられては大変だと思ったので、急に他から嫁をもらうことにして、それをちょっと相談したが、王は首を振って振りむかなかった。そして、ただ毎日呉の来るのを待っていたが、どうしても呉が来ないので、王はたちまち怒って呉を怨んだが、ふと思いなおして、三十里はたいした道でもない、他人に頼む必要がないといって、彼の梅の花を袖に入れて、気を張って出かけていった。家の人はそれを知らなかった。
王は独り自分の影を路伴《みちづ》れにしていった。そして道を聞くこともできないので、ただ南の方の山を望んでいった。ほぼ三十里あまりもゆくと、山が重なりあって、山の気が爽《さわ》や
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