なった。母親はその理由《わけ》を聞こうと思って、
「お前、どうしたの。お母さんには遠慮がいらないから、いってごらんよ。お前の良いようにしてあげるから。」
といって優しく訊《き》いても黙って返事をしなかった。そこへ呉が遊びに来た。母親は呉に悴《せがれ》の秘密をそっと聞いてくれと頼んだ。そこで呉は王の室へ入っていった。王は呉が寝台の前に来ると涙を流した。呉は寝台に寄り添うて慰めながら、
「君は何か苦しいことがあるようだが、僕にだけいってくれたまえ。力になるよ。」
といって訊いた。王はそこで、
「君と散歩に出た日にね。」
というようなことを前おきにして、精《くわ》しく事実を話して、
「どうか心配してくれたまえ。」
といった。呉は笑って、
「君も馬鹿だなあ、そんなことはなんでもないじゃないか。僕が代って探してみよう。野を歩いている女だから、きっと家柄の女じゃないよ。もし、まだ許嫁《いいなづけ》がなかったなら、なんでもないし、許嫁があるにしても、たくさん賄賂をつかえば、はかりごとは遂《と》げられるよ。まァそれよりか病気をなおしたまえ、この事は僕がきっと良いようにして見せるから。」
とい
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