「どうした。」
すると嬰寧はむせび泣きをしていった。
「これまでは日が浅いから、こんなことをいったら、怪しまれるだろうと思って黙っていましたが、今ではお母さんもあなたも、皆さんが私を可愛がってくださって、へだてをしてくださらないからありのままに申しますが、私はもと狐から生まれたものです。母が他へゆくことになって、私を没くなっているお母さんに頼んだものですから、私は十年あまりもお母さんの世話になってて、今日のようなことになりました。私には他に兄弟もありませんし、恃《たの》みにするのはあなたばかりです。今、お母さんは寂しい山かげにいるのですが、だれもお父さんの傍へ葬ってくれないものですから、お母さんはあの世で悲しんでいるのです。あなたがもし、費用をおかまいなさらないなら、あの世の人の悲しみをなくしてやってください。私をお世話してくだされてるから、すてておくこともできないと思って。」
王はうなずいた。
「いいとも、だがどこにあるだろう。」
嬰寧はいった。
「すぐ判《わか》ります。」
日を期して二人は※[#「木+親」、第4水準2−15−75]《ひつぎ》を持って出かけていった。嬰寧はいばらの生い茂った荒れはてた中を指さした。掘ってみると果して老婆の尸《しがい》があった。皮膚も肉体もそのままであった。嬰寧はその尸を撫《な》でて泣いた。
そこで二人はその尸を※[#「木+親」、第4水準2−15−75]に入れて帰り、秦氏の墓を尋ねて合葬した。その夜、王の夢に老婆が来て礼をいって帰った。王は寤《さ》めてそれを嬰寧に話した。嬰寧はいった。
「私は、ゆうべ逢ったのですよ。あなたをびっくりさしてはいけないというものですから。」
王はいった。
「なぜ留《と》めておかなかったのだ。」
嬰寧はいった。
「あの人はあの世の人ですから、生きた人の多い、陽気の勝った所にはいられないのです。」
そこで王は訊いた。
「小栄はどうしたのだろう。」
嬰寧がいった。
「あれは狐ですよ。あれは気が利いてたから、母が私の世話をさしたものです。しょっちゅう木の実を取って来てくれました。だから私は有難いと思ってるのですが、母に訊きますと、もうお嫁にいったのですって。」
その歳から冬至《とうじ》から百五日目にあたる寒食《かんしょく》の日には、夫婦で秦氏の墓へいって掃除するのを欠かさなかった。女は翌年に
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