坂の下に見る火のやうに下に見えてゐた。入つて来た露次の工合から平坦な土地のやうに感じてゐたその感じを裏切られてしまつた。其所にはたらたらとおりて行く坂路のやうな路があつた。お菊さんは不思議な家だと思ひながら足許に注意しい/\歩いた。
萠黄色に見える火の光とも、また見やうによつては蓴菜の茎のやうにも見える物が眼の前に一めんに立つてゐるやうに思はれて来た。そしてその萠黄色の茎は身だけよりも一層長く上に延びてゐて、それに手がかゝつたり頬が触つたりするやうに思はれた、お菊さんは立ち止つた、萠黄色の茎はゆうらりゆうらりと動いてゐるやうに見えた。お菊さんは驚いて眼を上の方にやつた。上の方は薄月がさしたやうにぼうと明るくなつてゐて、其所には蓴菜の葉のやうに円い物が一めんに浮んだやうになつてゐた。
お菊さんは不思議な家へ来たものだと思つた。そして早く玄関へ行つて、北村さんに逢ひたいと思つた。お菊さんは玄関の火に注意した。青醒めたやうな光は遠くの方に見えてゐた。お菊さんは萠黄色の茎に眼をふさいで歩き出した。
「来たのか、来たのか、」
お菊さんは吃驚して立ち止つた。黒い背のひよろ長い物が前に来て立つ
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