「お前は勝沼在の寺にいる、どうした、この様は」
 女は大きな呼吸《いき》を吐いた。
「私は、家にいると、某日《あるひ》、背の高い坊主が来て、私を睨んだことをおぼえておりますが、それからは、何をしていたやらさっぱり判りません」
 飯田は奇怪な思いと不快な思いに精神が錯乱しようとした。部下は急いで女の縄を解いた。女は飯田に執りすがって泣いた。

 妖憎は二三日して勝沼の官軍の手で殺戮せられたが、その官軍の中にはもう飯田の姿は見えなかった。



底本:「日本の怪談」河出文庫、河出書房新社
   1985(昭和60)年12月4日初版発行
底本の親本:「日本怪談全集」桃源社
   1970(昭和45)年初版発行
入力:大野晋
校正:松永正敏
2001年2月23日公開
青空文庫作成ファイル:
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